JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会)多焦点眼内レンズ情報情報

多焦点眼内レンズの臨床成績

国内での各種多焦点眼内レンズの割合

日本国内で承認された多焦点眼内レンズの中で、2019年では2焦点眼内レンズが約44%、焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズが約37%、3焦点眼内レンズが約19%を占めていましたが、2020年度(第一~第三四半期)は、3焦点眼内レンズが約62%、焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズが約20%、2焦点眼内レンズが約18%と推定されており、3焦点眼内レンズのシェアが増加しています。

  • グラフ:2019年 三焦点眼内レンズのシェア率
  • グラフ:2020年 三焦点眼内レンズのシェア率

国内の多焦点眼内レンズの臨床成績

日本国内全体の臨床成績としては、JSCRS調査グループによる調査結果が2019年に報告されています1
2017年1月~2018年6月に国内65施設で行われた1631眼の多焦点眼内レンズ手術を前向きに観察研究したものですが、その結果、遠方視力が有意に改善し、中間視や近方視は眼内レンズの種類によって異なりますが、68.4%の患者さんが眼鏡不要もしくはほとんど不要となりました。

その一方で、3.9%の患者さんが何らかの不満を訴えていましたが、術後の見え方が最も満足度に影響を与えていました。全体としては、良好な視力が得られ、満足度が高い術式であることが報告されています。

国内の多焦点眼内レンズ摘出例報告

多焦点眼内レンズを挿入後に何らかの理由で摘出した症例の症状や原因について、JSCRS調査グループによる調査結果が、2014年に報告されました2
2005年1月~2012年12月に国内10施設で行われた4254眼の多焦点眼内レンズ手術の中で、 不満症状があったのが307眼(7.2%)、さらに摘出にまで至った症例37名50眼(1.2%)の摘出原因を解析したものですが、最も摘出原因として多かったのが、コントラスト感度の低下(36%)が最多であり、次いでグレア・ハロー(34%)、適応不全(32%)、屈折ずれ(20%)、術前期待過多(14%)の順でした。 多焦点眼内レンズの問題点として、頻度は稀ですが、人によっては摘出が必要なほどの不具合を生じる可能性があることを示しています。単焦点眼内レンズに交換する症例が多く、見え方に対する満足度は改善することもわかりました。

海外の多焦点眼内レンズ臨床成績

最もエビデンスレベルの高い海外のメタアナリシス研究として、2015年1月12日までに世界で発表された多焦点眼内レンズに関連する論文から、信頼性の高い研究214報を選択し、内容を解析した報告があります3
その結果、多焦点眼内レンズ挿入後の遠方裸眼視力は単眼で平均0.89(8797眼)、両眼で平均0.91(6334名)で、眼鏡を使用しないで生活されている方の割合は80.1%でした。一方、見え方の質を表すコントラスト感度は、約1/3の研究では単焦点眼内レンズと同等でしたが、2/3の研究では、正常範囲ではあるものの、単焦点眼内レンズよりは悪いという結果でした。
別のメタアナリシス研究として、1946年1月から2016年1月までに世界で発表された関連論文から、合計2230名のデータを含む信頼性の高い研究20報を選択し、内容を解析した報告があります4
多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズと比較して遠方視力は同等、近方視力はより良好であり、眼鏡を使用しないで生活できる方の割合は高いことが報告されています。その一方、単焦点眼内レンズよりもグレア・ハローなどの不快光視現象が多く、見え方の質を表すコントラスト感度は低いとされています。したがって、単焦点眼内レンズと比較して多焦点眼内レンズが良いかどうかは、患者によってそれぞれ異なり、どちらにするか決める際には、眼鏡をかけないで生活したいかどうかを考慮することが重要と結論されています。

多焦点眼内レンズ選択を選択する前に

多焦点眼内レンズによって、眼鏡無しで日常生活を過ごせるようになる可能性がある反面、再手術によって摘出しなければいけなくなる症例も報告されています。多焦点眼内レンズを希望する際には、手術のメリットやデメリットについて医師とよく相談し、十分に納得されてから、手術を受けることが望ましいでしょう。

注釈

メタアナリシス(meta-analysis):
複数の研究結果を統合し、分析するための手法で、根拠に基づいた医療(EBM:Evidence based medicine)において、最も質の高い根拠とされる。

文献

  • Negishi K, Hayashi K, Kamiya K, Sato M, Bissen-Miyajima H; Survey Working Group of the Japanese Society of Cataract and Refractive Surgery. Nationwide Prospective Cohort Study on Cataract Surgery With Multifocal Intraocular Lens Implantation in Japan. Am J Ophthalmol. 2019;208:133-144.
  • Kamiya K, Hayashi K, Shimizu K, Negishi K, Sato M, Bissen-Miyajima H; Survey Working Group of the Japanese Society of Cataract and Refractive Surgery. Multifocal intraocular lens explantation: a case series of 50 eyes. Am J Ophthalmol. 2014;158:215-220.
  • Rosen E, Alió JL, Dick HB, Dell S, Slade S. Efficacy and safety of multifocal intraocular lenses following cataract and refractive lens exchange: Metaanalysis of peer-reviewed publications. J Cataract Refract Surg. 2016;42:310-328.
  • de Silva SR, Evans JR, Kirthi V, Ziaei M, Leyland M. Multifocal versus monofocal intraocular lenses after cataract extraction. Cochrane Database Syst Rev. 2016;12:CD003169.

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