JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会)多焦点眼内レンズ情報情報

多焦点眼内レンズ選択時の注意点

多焦点眼内レンズについて、老眼を治す(老視矯正の)便利な眼内レンズと思われる方も多いと思いますが、原則として白内障治療の一つのオプションと考えてください。白内障が全く発症しておらず、老眼の治療のみを目的にこの手術を受けると、満足のいく結果が得られない可能性があります。その理由として、多焦点眼内レンズは、遠方と近方の両方に焦点があると言うすぐれた特徴を持つ反面、単焦点眼内レンズや、白内障のない透明水晶体と比べて劣っている点もあるからです。

水晶体と多焦点眼内レンズのちがい

人間のレンズ(水晶体)は、膨らんだり薄くなったり形を変えて遠くや近くにピントを合わせています(図1)。多焦点眼内レンズは異なった仕組みで、眼に入ってきた光を、遠方用と近方用に振り分けます。そのため、遠方と近方の両方とも、正常よりやや少ない光で見なければいけません。これによって、コントラスト(映像のシャープさや、微妙な濃淡)が落ちてしまいます。一方で、単焦点眼内レンズは目に入ってきた光を振り分けずに使うので、1ヶ所しかピントが合いませんが、コントラストが高い見え方になります。眼鏡なしで近くを見る時は多焦点眼内レンズの方がよく見えますが、単焦点眼内レンズで老眼鏡をかけた場合の方がシャープな見え方になります(図2-a,b,c)。多焦点眼内レンズの特性として、コントラストが低下しているので、眼鏡で矯正しても補正出来ない場合があります。

図1

  • 遠方用
    遠方用
  • 近方用
    近方用

図2

  • 単焦点眼内レンズ(遠方) 画像
    a. 単焦点眼内レンズ(遠方)
  • 単焦点眼内レンズ(近方) 画像
    b. 単焦点眼内レンズ(近方)
  • 多焦点眼内レンズ 画像
    c. 多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズの見え方

多焦点眼内レンズが入っている眼では、遠くと近くの両方に同時にピントが合っているという、これまでに無い経験をしていることになります。例えば、遠方の景色を見ていても、眼内レンズの遠方用部分を通ってきた、ピントの合っている映像と、近方用部分を通ってきた、ピントの合っていない、ぼけた映像との両方が、眼に入ってきます。これでは困ってしまうので、多焦点眼内レンズが入っている人の脳は、ぼけた方の映像は無視するように自動的に機能するようになります。ちょうど、野球観戦の時にネット越しに野球をみているのと同じで、本当はネットも見えているのですが、野球選手のプレーに集中していれば、ネットが気にならないのと同じ仕組みと思います。高齢者でこの機能の働きが悪い場合はよく見えない場合があります。また、神経質で見え方の交通整理が上手くいかないと、野球を見ているのにネットがずっと気になっている状態となり、不満が出ることがあります(図3)。
これらの現象が見られても、脳が順応して行くために、多くの場合で、気にならなくなってきます(これを、中枢適応といいます)。しかし、この中枢適応に時間のかかる方や、時間をかけても適応できない方が、希にみられます。

図3

  • ネットがずっと気になっている状態
  • 気にならなくなった状態

多焦点眼内レンズと瞳孔径

次に、多焦点眼内レンズを入れた眼では、瞳孔が大きくなっている状態(薄暗い所、暗いところ)で、光が少し滲む、流れるなどの特徴(グレア・ハロ)があります。このため、夜間、車の運転時に気になる方が、時にいらっしゃいます(図4)。多くの方は、この現象を感じますが、生活や仕事に影響するような程度になることは少ないと言えます。ただし、職業ドライバーの方は、慎重に担当医とご相談されることをお勧めします。

図4

  • 単焦点
    単焦点
  • 多焦点
    多焦点

模型眼にて夜間風景をシミュレーションした画像
(実際の見え方とは異なる場合があり、レンズの種類によっても程度の差があります)

文献

谷口 重雄、早田 光孝:模型眼を用いた新世代多焦点眼内レンズの網膜像シミュレーション
IOL & RS Vol.23-No2: 214-223, 2009.

多焦点眼内レンズの摘出症例

多焦点レンズにはいくつかの欠点がありますが、実際にはこれらの欠点よりも、遠方近方両方が見える魅力の方が勝っているために、国内外の報告でも、概ね9割強の方が満足をしています。ただ、残り1割弱の不満例の中で、上記のような現象が認容できず、再手術によって単焦点眼内レンズに入れ替えるケースが、国内では、1.2%程にみられています。

注釈

Kamiya K, Hayashi K, Shimizu K, Negishi K, Sato M, Bissen-Miyajima H; Survey Working Group of the Japanese Society of Cataract and Refractive Surgery: Multifocal intraocular lens explantation: a case series of 50 eyes. Am J Ophthalmol.158: 215-220, 2014.

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